財務諸表を理解する(その1)
財務諸表を理解する
財務諸表を最低限、読めるようになるために
本日は、ざっくり財務諸表を読むための方法をご紹介いたします。
サンプル資料は、日本航空の2002年度〜2008年度を使用してみます。ご存知の通り、日本航空は2010年に会社更生法の適用を申請しておりますが、その後、公的資金の投入と稲盛氏の経営改革により見事V字回復を遂げ、現在に至ります。今回は、破綻に至る前の2008年の財務諸表から何が読み取れそうかをみていきます。これを機に財務諸表を少しずつ読めるようになっていただければ幸いです。
財務諸表とは
財務諸表は、主に、①貸借対照表(B/S)、②損益計算書(P/L)、③キャッシュ・フロー計算書、 ④営業報告書、⑤利益処分計算書、⑥附属明細書があります。そのうち、①〜③を財務三表と呼びます。本日は、この財務三表を確認してみます。
①貸借対照表
貸借対照表は、一定期間においてお金をどうやって集めて、どうやって使っているかをあらわす表です。まずは、実際の貸借対照表をみてみましょう。
…何をみたら良いかさっぱりわかりませんね。 そこで、まずは、下記のように骨組みだけを抜いてみましょう。大きく俯瞰してみます。
まず、貸借対照表のルールを覚えましょう。それは、左側と右側の各合計が必ず一致する、というルールです。左側を借方、右側を貸方と呼びます。
(1)右側の貸方は、ひとことでいうと、どうやってお金を集めたのか。
負債:お金を他人から借りた。つまり他人からの借金なので返さなければいけない。つまり、他人資本。
純資産:自分で作ったお金。つまり返す必要はないお金。株主から集めた資本と事業で産んだ利益がこれに含まれます。つまり自己資本です。
(2)左側の借方は、ひとことでいうと、お金をどうやって使ったか。
流動資産:現金化しやすい資産。あるいは現金・預金そのもの。他には売掛金など。
固定資産:現金化しにくい資産。土地・建物など。
これら2つを合算して資産と呼びます
考え方
①貸方は、負債(借金)よりも返す必要のない純資産が多い方が良いに決まってますよね。ここでは、純資産>負債という図式が理想と覚えておいてください。
② 流動資産と固定資産を合算した資産に占める純資産の割合(自己資本比率)が高ければ高いほど良いはずですよね。また、借方では、現金化しやすい流動資産をたくさん持っている方が身軽であるといえます。
気づき
まず、負債がかなり多いですね。また、資産に対して、純資産の割合(自己資本比率)も11.2%です。この割合は、通常50%が理想、30%以上あると良いといわれております。この11.2%は、裏を返すと、90%近くが負債ということになりますよね。ということは、危険水域といえる数値です。
② 損益計算書
つぎに、損益計算書です。損益計算書は、1年間の利益と費用の構成を確認するための表です。先に、損益計算書を見ておきましょう。
…ここも何をみたら良いかさっぱりわかりません。
まず、損益計算書では5つの利益に着目してください。その5つとは、①売上総利益、②営業利益、③経常利益、④税引前利益、⑤当期純利益です。
ただし、上記の損益計算書では、①が定義されずに②からはじまってますので注意してください。ここでは、営業収益は売上高となり、営業費用は、売上原価+販管費(販売費および一般管理費)となります。この営業収益 – 営業費用 = 営業利益となります。
(1)売上総利益
売上高 – 売上原価(仕入れ、商品材料、工場人件費、ソフトウェア開発などはプログラマ人件費を含めることもある)
(2)営業利益(本業の儲け)
売上総利益 – 販管費・一般管理費(広告販促費、営業マンのコスト、間接部門の人件費など)
(3)経常利益(経営における儲け)
営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用
(4)税引前利益
経常利益 + 特別利益 – 特別損失(災害費用、減損損失)
(5)当期純利益(最終的な利益)
税引前利益 – 法人税など
ポイント
5つの側面で利益をみてください。どの利益段階でマイナスになったかにより、何が足を引っ張ったかを判別できます。その何がを調べるときにはじめて、いわゆる勘定項目(表示金額の内容を示す名称)を細かく当たると良いでしょう。例えば、売上総利益は例年並みだったにも関わらず、営業利益が悪化したのであれば、販管費、営業マンコストまたは間接部門の人件費のいずれかに要因が必ずあるはずです。
気づき
2008年は営業利益の段階ですでに赤字となっております。今回の場合、営業費用は昨年より減少しつつも、売上高の減少が大きかったといえます。
③ キャッシュ・フロー計算書
そして、キャッシュフロー損益計算書です。キャッシュ・フロー計算書は、現金・預金の増減をあらわした表です。例のごとく、実物をみてみましょう。
…。やっぱり何をみたら良いか本当にわかりません。
ここでは、まず、3つの柱があることを先に理解してください。
それは、①営業活動におけるキャッシュ・フロー、②投資活動におけるキャッシュ・フロー、③財務活動におけるキャッシュ・フローです。
(1)営業活動におけるキャッシュ・フロー(本業での稼ぎの流れ)
ここで、営業活動(本業)でどれだけ稼げているかをみます。
まずは、上記の資料から、I.営業活動によるキャッシュ・フローをみてみましょう。
ここは、①そもそもマイナスかどうか、②前期と比較して、上がったのか下がったのかを大きくみておいてください。この場合、マイナスではなかったものの、前期営業CFが157,331 → 31,755まで減少したことがわかります。つまり、これは営業活動(本業)ではキャッシュを生み出せていない = 稼げていないことを示しております。
(2)投資活動におけるキャッシュ・フロー(投資活動:投資するとマイナス)
ここでは、将来の成長のためにどれだけ投資をしたかをみます。マイナスだからダメということではありません。投資活動のキャッシュ・フローと、営業活動におけるキャッシュ・フローを比較して判断することが必要です。
営業CF < 投資CFの場合、投資額をまかなえていない状況となりますので借入・増資で賄う必要が出てきます。そこで、あらためて上記のII.投資活動によるキャッシュ・フローをみてみましょう。
営業CF(31,755) < 投資CF(△105,663)
この通り、投資CFでかなりキャッシュを使っていることがわかります。
(3)財務活動におけるキャッシュ・フロー(貸し借り)
ここでは、営業活動あるいは、投資活動を支えるために、どれだけ資金を調達し返済していったかをみます。この財務活動におけるキャッシュ・フローがプラスかマイナスかだけでは良い悪いとはいえません。ここは場合分けをすることで、成長局面なのか、資金繰りが苦しいかといったストーリーが見えてきます。
今回のようなケース
営業CFよりも投資CFがオーバーしている状態ですので資金調達が必要なはずです。
しかし、2008年度の財務活動によるキャッシュ・フローはマイナスでした。つまり、資金調達がうまくいっていない状態です。本来なら、ここの財務CFはプラスでなければいけないです。おそらく、銀行が貸し渋り、または、投資家も追加投資をしかねた状況があったかもしれません。
もし健全な場合
営業CFが潤沢にあり、投資もしているが営業CF > 投資CFでかつ、財務CFもマイナスの状態です。
ベンチャー企業でよくあるパターン
営業CF、投資CFがともにマイナスで、財務CFがプラスになっているパターンです。本業のマイナスを資金調達でカバーしながら投資を続けて走り続けているような状況です。
まとめ
今回は、財務諸表のうち、財務三表をみてみました。また、ここをみておけば良いという点にフォーカスしつつ、考え方をワンポイントで加えておきました。この後は、この財務三表を活用して、企業活動における収益側面・安全性側面・成長性側面を判断するために必要な指標を俯瞰する必要があります。次回は、下記の指標をそれぞれみていきます。
- 収益側面(粗利率, 営業利益率, 経常利益率, 当期純利益率, 損益分岐点売上高,ROA:総資産利益率, ROE:自己資本利益率, ROI:投下資本利益率)
- 安全性側面(自己資本比率, 流動比率, 固定比率, 固定長期適合率,)
- 成長性側面(売上, 利益, 資産:利益)
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