Tableau(タブロー) 簡単な財務分析ダッシュボードを作る
はじめに
今回は、「財務分析」するための簡単なダッシュボードを作成してみます。データソースは、下記サイトのデータソースを活用させていただきます。下記からダウンロードできます。上場企業の営業活動の良し悪しを測るいくつかの指標を活用できます。
今回、ダウンロードしてそのまま使用可能な財務指標は下記の通りです。Tableau(タブロー)の計算式フィールドで加工することで使用可能となる指標もいくつかあります。こちらは、後述します。
売上高
営業利益
経常利益
純利益
一株当り純利益
希薄化後一株当り純利益
純資産又は株主資本
総資産
一株当り純資産
営業キャッシュフロー
投資キャッシュフロー
財務キャッシュフロー
ダッシュボード完成イメージ
※自己資本や総資産など、有価証券報告書では期首期末平均を用いるようです。今回は、当該データでは不十分なため単純にデータ出た目をそのまま使用しております。それを各計算式で利用しておりますため、有価証券報告書の自己資本比率、総資産利益率または、自己資本利益率と多少ずれることがあります。
通常はおもに財務3表を使って分析する
通常、財務分析にはおもに財務3表を使用します。財務3表とは、財務諸表のうち、①貸借対照表(Balance Sheet B/S)、②損益計算書(Profit Loss Statement P/L)、③キャッシュ・フロー計算書(Cash Flow Statement C/F)を指します。
下記で、それぞれの計算書の前提条件とそこから導ける指標を整理したいと思います。
* 自己資本や純資産など、会計基準によって説明の一部に不備が生じる可能性があります。あらかじめ、ご了承いただければ幸いです。
①貸借対照表
企業のある一定時点における資産、負債、純資産の状態を表すために複式簿記と呼ばれる手法により損益計算書などと同時に作成され、その企業の株主、債権者その他利害関係者に経営状態に関する情報を提供する。 Wikipedia
貸借対照表の枠組みは下記の通りです。下記の情報をもとに、真っ先に何に注目すべきでしょうか。そこを確認していきます。
では、上記の前提だけで指標を導きましょう。※ 指標が率の場合、100をかけて%表記としてください
総資本に占める、自己資本の割合が50%もしくは30%を超えたか?逆に、10%を切ったか?→ 自己資本比率(自己資本/総資本)
上記の計算結果、10%だとした場合、裏を返すと、90%が負債 であることを暗示しております。あなたは90%が負債の企業をどう判断しますか?
自己資本に対する負債の割合が100%を超えたか? → 負債比率(負債 / 自己資本)
負債が多い場合、100%を超えてきます。当然、自己資本が多い方が良好といえるでしょう。
自己資本に対して、総資本は何倍か?→ 財務レバレッジ(総資本/自己資本)
例えば、自己資本1に対して、総資本が10の場合、財務レバレッジは10倍です。
裏を返すと、財務レバレッジが高倍率の場合、負債過多 を暗示しており要注意な状態です。
流動資産が流動負債を上回っている?→ 流動比率(流動資産/流動負債)
100%を超えた場合は、流動資産が多いことを示しております。つまり、流動資産で流動負債を賄えている ことを暗に示しております。目安としては、150%から200%あれば安全圏といわれております。
固定資産を自己資本で賄えている? → 固定比率(固定資産/自己資本)
100%を下回った場合、自己資本の方が多いことを示しております。つまり、固定資産を自己資本で賄えている ことを暗に示しております。目安としては、100%以下なら安全圏といわれております。
固定資産を(自己資本+固定負債)で賄えている?→ 固定長期適合率( 固定資産/(自己資本+固定負債) )
自己資本と固定負債を足してもなお、固定資産が多い場合は危険な状態です。目安としては、100%以上で危険です。
そのほかにも、下記のような指標があります。
当座資産 / 流動負債 = 当座比率
当座資産とは、現金、預金、受取手形、売掛金、市場性のある一時所有の有価証券、短期貸付金や未収金を指します。つまり、比較的換金しやすい資産で流動負債を賄えていれば大丈夫です。これは、企業の支払い能力を評価する指標の一つとなります。
ここまでで導き出した指標
自己資本比率
財務レバレッジ
流動比率
固定比率
固定長期適合率
当座比率
②損益計算書
損益計算書とは、企業のある一定期間における収益(revenue)と費用(expense)の状態を表すために、複式簿記で記録されたデータを集計することによって、貸借対照表などと同時に作成される。企業内において経営判断のための情報として用いるほか、株主や債権者などに経営成績に関する情報を提供する。 Wikipedia
損益計算書の枠組みは下記の通りです。下記の情報をもとに、まずは、4つの利益(売上総利益/営業利益/経常利益/当期純利益)に着目してください。特に、本業での儲けを暗示する営業利益が大事です。
では、上記の前提だけで指標を導きましょう。
売上原価が利益を圧迫していないか? → 売上高総利益率(粗利率) (売上総利益 / 売上)
この売上高総利益率(粗利率)が高ければ良い、低ければ良くないとは一概にいえません。付加価値が高ければ、当然、売上高総利益率(粗利率)は高くなります。
本業でしっかりと儲かっているか? → 売上高営業利益率 (営業利益 / 売上高)
目安としては、概ね、5%を超えてくると良いといわれております。当然、業界ごとに異なりますし、競合との相対比較が大事です。
企業活動全体として経営効率化できているか? → 売上高経常利益率 (経常利益 / 売上高)
本業の他に、企業活動全体としてしっかりと経営効率化して収益化できているかを示します。目安としては、概ね、4%を超えてくると良いといわれております。
最終的に残った利益の割合 → 当期純利益率 (当期純利益 / 売上高)
企業の経営活動の最終的な成果となるのが当期純利益です。売上高に占めるその割合が当期純利益率です。
あらためて、大事なのは、どの段階までの利益区分が順調で、どの利益区分から不調になったのかを線引きできるかどうかという点にあります。もし、本業の儲けを示す営業利益(率)までが順調だったとしても、経常利益(率)で悪化したことがわかった場合、本業以外の何かで足を引っ張った可能性が高いことを示します。例えば、本業以外の不動産投資に手を出してしまった結果、それが失敗した場合は、経常利益(率)以降に影響を及ぼします。実際はそこを深掘りした上で不動産投資で失敗したんだな、と判断します。
売上高総利益率
売上高営業利益率
売上高経常利益率
当期純利益率
③キャッシュ・フロー計算書
企業会計について報告する財務諸表の1つである。このC/Fは会計期間における資金(現金及び現金同等物)の増減、つまり収入と支出(キャッシュ・フローの状況)を営業活動・投資活動・財務活動ごとに区分して表示する。 Wikipedia
キャッシュ・フロー計算書は、貸借対照表の現金・預金と関係します。キャッシュ・フロー計算書を見る場合は、3つのキャッシュ・フローのバランスで判断します。3つのキャッシュ・フローとは以下の通りです。
営業活動によるキャッシュ・フロー
企業本来の営業活動からどれだけキャッシュを産み出せたか。通常は、プラス+になります。
投資活動によるキャッシュ・フロー
投資に要したキャッシュがどれだけあるかを示します。営業活動でしっかりとキャッシュを産み出せた場合、通常、将来の事業に向けて投資を行いつつ、有利子負債の返済に充てます。そのため、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナスになることは必ずしも悪いことではありません。
財務活動によるキャッシュ・フロー
資金調達もしくは、資金の返済など企業の財務に関わるキャッシュ・フローを示します。プラスだから良い、マイナスだから悪いなど、一概にはいえません。営業活動、投資活動とあわせて良し悪しを判断する必要があります。
本業が好調の場合) 営業C/F + 投資C/F - 財務C/F - (+ – -の型)
営業では儲け、投資を実施(マイナス)、財務も返済が進んでいるイメージ
積極的投資の場合) 営業C/F + 投資C/F - 財務C/F + (+ – + の型)
営業では儲けつつ、投資をしながらさらに資金調達を加速させているイメージ
本業が不調の場合) 営業C/F - 投資C/F - 財務C/F + (- – + の型)
営業では赤字、でも投資しながら資金調達しているようなイメージ
本業不調資産切売) 営業C/F - 投資C/F + 財務C/F - (- + – の型)
営業が赤字、投資もせずにリソースを切り売り、返済に回しているイメージ
④貸借対照表と損益計算書であわせてみる
ここでは、貸借対照表と損益計算書をあわせてみます。損益計算書で求められた当期純利益は、ざっくりいうと、貸借対照表の利益剰余金の一部に組み込まれることになります(繰越利益剰余金)。この当期純利益を使って、さらに指標を整理してみます。
資産(総資産)に対して、当期純利益の割合は10%以上か? → 総資産利益率(当期純利益 / 資産) ※ROA Return On Assets
資産をしっかりと活用して利益を産めているかどうか。
自己資本に対して、当期純利益の割合は10%以上か? → 自己資本利益率(当期純利益 / 自己資本) ※ROE Return On Equity
株主が投資した資本に対して、どれだけ利益が上がったか。ROEが良くても、ROAが極端に低くなる場合、負債過多になっている可能性があります。ROA, ROEの両方をあわせてみておく必要があります。
投下資本(純資産 + 有利子負債)に対する営業利益の割合 → 投下資本利益率(営業利益 / (純資産+有利子負債)) ※ROI Return On Investment
投下資本に対して、どれだけ営業利益を上げられたか。業界によってばらつきが多いため、目安となる平均は業界別で見る必要があります。
総資産を有効活用してどれだけ売上を増加させることができたか? → 総資産回転率(売上 / 総資産)
資産がどれだけ効率的に売上を産み出せたかを示す指標です。売上高を維持しながら総資産を効率的に処分するか、もしくは資産を増やさずに効率的に売上を増加させることでこの指標を向上させることができます。
ここまで出てきた指標
総資産利益率(ROA)
自己資本利益率(ROE)
投下資本利益率(ROI)
総資産回転率
もちろん、これまで出てきた指標以外にも重要指標は下記の通り、まだまだあります。ただし、下記は、今回活用するデータを使って定義することができません。そのため、列記までとさせていただきます。
損益分岐点 = 固定費 / (1-変動率)
EPS (1株あたり利益) = 当期純利益 / 発行済株式総数
PBR (株価純資産倍率) = 株価 / 1 株当たりの純資産
PER (株価収益率) = 株価 / 1 株あたり利益
売上債権回転率 = 売上高 / (売掛金 + 受取手形)
配当性向 = 配当金 / 当期純利益
財務分析に必要な指標はこちらでも良く整理されております。あわせて、ご確認ください。
今回データで実現できる指標を分類する
今回活用できるデータで、定義可能な指標は下記の通りです。
※ 有価証券報告書などでは、総資産・自己資本などは期首期末平均を用いて計算するようです。今回データでは十分なデータがありませんので考慮しません。そのため、有価証券報告書での自己資本比率と完全一致しません。
収益性を見るための指標
・営業利益率
・当期純利益率
・総資産利益率(ROA)
・自己資本利益率(ROE)
・総資産回転率
安全性を見るための指標
・自己資本比率
・自己負債比率
・※キャッシュ・フローによるパターン判断
成長性を見るための指標
・売上高
・営業利益
・経常利益
・当期純利益
ダッシュボード:サマリデータ + 収益性・安全性・成長性 に分けてみる
それでは、ダッシュボード作成のためのパーツを組み立てていきます。
(1)まずは、ダッシュボードの左上。
ここでは、”正確な数値” を把握するための領域です。メジャーバリューがマイナスであれば赤で表記しております。色の編集で、ステップドカラーを2ステップ、中央値を0として設定しております。
(2)ダッシュボードの中上。
ここでは、自己資本率をみて企業の安全性を真っ先に把握します。50%を越えると倒産の危険性はありません。30%以上でも良好といわれております。逆に、10%以下は注意が必要な状態といえます。それぞれ、定数線を設定しております。10%以下を判定する式を作成して色に配置することでアラートを設定することも可能です。
(3)ダッシュボードの右上。
ここでは、自己資本比率、負債比率、ROA、ROEの計算根拠となる数値をBar in Bar で表現しております。具体的には、共有軸を作り、それと当期純利益で二重軸を作って4つの指標をBar in Barチャートに組み込みました。また、色凡例を浮動設定してなるべく近接させつつ、集中阻害しない場所へ配置しております。軸やヘッダーも可能な限り、削ぎ落としております。なお、数値としての見方は、負債>純資産又は株主資本である場合、注意が必要といえます。
(4)ダッシュボードの左下。
ここでは、ROAならびにROEが一定水準を超えているかどうかを確認可能とする領域です。ここでは、8%を定数線で設定しております。また、色の編集で0.08を基準としてステップドカラー2でアラート設定しております。なお、指標の見方としては、ROEが基準を満たしていたとしても、極端にROAの比率が低い場合、負債過多となっておりますので注意が必要です。右上の(3)のチャートとあわせて確認ください。
(5)ダッシュボードの中下。
ここでは、3つのキャッシュ・フローを確認しながら企業の安全性を確認いたします。財務活動によるキャッシュ・フローの項で説明した通り、パターンタイプで安全性を判断してみてください。営業C/F:投資C/F:財務C/Fが、+:-:- のパターンタイプであれば健全といえます。なお、投資C/Fのマイナスは投資されていることを示します。ここではマイナスだからといって必ずしも悪いわけではありません。相対的な判断が必要です。
(6)ダッシュボードの右下。
ここでは、企業の成長性を示す、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益を折れ線チャートで作成しております。全体的に右肩下がりの場合は、他のチャートと合わせて注意深く分析する必要があります。
(7)ダッシュボードのアクション設定
ここでは、 ダッシュボードでフィルタ設定しております。ポイントは、各フィルタ効果を全部のシートに影響するように関連付ける点です。
まとめ
今回は、Tableau(タブロー)を使って、財務分析のための簡単なダッシュボードを作成してみました。企業の収益性、安全性、成長性の3つのカテゴリでじっくり検証する上で、その最初の一歩として当該ダッシュボードは役に立つのではないでしょうか。大まかな課題感を掴んだ上で、財務諸表にあたることで財務分析がより効率的になると思います。みなさんも、これを機に、財務諸表とそれに関する指標を理解しながら、ぜひ、財務分析にトライしていただけると幸いです。
BEP(損益分岐点)についてはこちら